大阪地方裁判所 昭和62年(行ウ)28号 判決 1989年5月25日
原告
三宅祥雅
被告
枚方市教育委員会
右代表者教育委員長
塚本伊久男
右訴訟代理人弁護士
河合伸一
同弁護士
仲田哲
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一申立
一 原告
1 被告が原告に対しなした昭和六二年二月二三日付分限免職処分を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文と同旨
第二主張
一 原告の請求原因
1 原告は、昭和四五年四月被告により地方公務員法(以下、地公法という)五七条の単純な労務に雇用される者として任用され、枚方市内の小、中学校の宿日直代行員として稼働してきた。
2 被告は原告に対し同六二年二月二三日付で地公法二八条第一項第一号、第三号に基づく分限免職処分(以下、本件処分という)を行った。
3 よって、原告は被告に対し本件処分の取消を求める。
二 被告の認否
請求原因1、2は認める。
三 被告の抗弁
被告は、原告には、次のとおり勤務状況が著しく不良であり、且つ、職務の適格性に欠ける等地公法二八条第一項第一号、第三号に該当する事由(以下、本件処分事由という)があると認め、所定の手続により本件処分を行った。
1(1) 学校長らの注意を受けながら、決められた始業、終業時刻(一六時三〇分から翌日八時三〇分まで)を遵守せず概ね一七時三〇分頃出勤し翌日七時三〇分頃退勤した。
(2) 枚方市における宿日直代行員の宿直勤務時間は、同四五年四月から同四七年三月まで一七時始業翌日九時終業と定められていたが、同年四月から一六時三〇分始業翌日八時三〇分終業と変更された。
(3) 枚方市における宿日直代行員らは同四五年以来(2)の勤務時間を承認の上、任用されており、又、被告は同五四年八月二三日宿日直代行員の所属する枚方市職員労働組合現業評議会(現枚方市職員労働組合宿日直代行員分会、以下、組合という)との間で、宿日直代行員の就業にかんする協約(以下、本件協約という)を締結し、宿日直代行員の週日における勤務時間について、一六時三〇分始業翌日八時三〇分終業と合意した(別紙本件協約三条)。
(4) 被告は同六〇年一月九日守口労働基準監督署長から宿日直代行員の右勤務時間等について労働基準法(以下、労基法という)四一条第三号所定の適用除外許可を受けた。
2 勤務時間中の夜間(同六一年七月一四日)、卒業生、在校生を職員休憩室に宿泊させたのみならず開錠して職員室へ入室させたため、職員の現金が盗まれた。
3 右同様(同月一〇日)、卒業生を校内に宿泊させ、代行員室において早朝までマージャンを共にした。その際、代行員室隣の女子更衣室において盗難があった。
4 勤務時間中に多数回、生徒とキャッチボールや卓球をした。
5 学校当局の指示、注意に反して、相当期間、代行員室の火災警報機のスイッチを切ったまま放置し、又、校舎廊下窓の閉戸をせず、定められた時刻に門扉の閉門をしなかった。
6 校内に私物の冷蔵庫、調理用具等を持込んで、社会通念を超えた調理(炊事)をした。
7 学校長等の指示に従わず反抗的態度を続けた。
8 学校内外において常軌を逸した行動があった。
よって、原告の請求は理由がない。
四 原告の反論
1 被告の抗弁中、原告に本件処分事由があることを否認する。
被告の主張する本件処分事由は、何れも事実を歪曲或いは誇張するものであり、地公法二八条第一項第一号、第三号に該当しない。
(1)<1> 抗弁1(1)中、原告は被告に宿日直代行員として採用されて以来、概ね一七時三〇分頃出勤し翌日七時三〇分頃退勤していたことは認めるが、その余は否認する。
<2> 同(2)は否認する。
<3> 同(3)中、本件協約の存在は認める。
<4> 同(4)は認める。
<5>イ 宿日直代行員の勤務時間は、一七時三〇分始業翌日七時三〇分終業、二二時就寝と定められているが、実際には二二時に就寝できないため、出退時刻は柔軟に取扱われている。
ロ 原告は右勤務時間に従い週六回合計八四時間宿直し、本件協約二条本文に定める一週間の労働時間七二時間を超えて就労している。
ハ 本件協約は労基法三六条の協定にはあたらず、原告主張の勤務時間の定めは一校二人勤務を前提とし、原告のように一校一人勤務の場合には適用されない。
ニ 被告は守口労働基準監督署長から労基法四一条第三号所定の適用除外許可を受ける際、宿日直代行員の業務実態について虚偽の申告をなし、組合もこれに加担した。その結果、原告ら宿日直代行員の労働は強化され、労働条件は右適用除外許可に関する労働省労働基準局長通達(昭和四四年四月七日基収三四三号)に反している。
ホ したがって、被告が主張する原告ら宿日直代行員の勤務時間は労基法三二条に違反している。
(2) 抗弁2、3は日時を除き認める。卒業生らは深夜来校したため追い返すこともできず止むなく校内に入れたが、事件発生後は校内に入れていない。
(3) 抗弁4は認める。但し、回数は少ない。職務の遂行に矛盾しない程度のキャッチボールをすることは許されるべきである。原告は学校当局の求めでソフトボール大会やその練習に参加したこともある。
(4) 抗弁5は認める。原告が代行員室の火災警報機のスイッチを切ったまま放置したのは近くの職員室にも火災警報機があったからであるが、注意を受け改めた。校舎廊下窓の閉戸、門扉の閉門は原告の職務ではない。
(5) 抗弁6は、社会通念を超えるとの点を除き認める。原告は必要最少限の炊事を行ったに過ぎない。
(6) 抗弁7、8は否認する。
2 原告は宿日直代行員として一七年間職務に精励してきたが、その間、被告及び学校当局に対し、労働条件改善について積極的に意見を具申してきた。被告はこれを嫌い、原告を排除する目的で本件処分をした。
第三証拠(略)
理由
一 原告は、昭和四五年四月被告により地公法五七条の単純な労務に雇用される者として任用され、枚方市内の小、中学校の宿日直代行員として稼働してきたこと、被告は原告に対し所定の手続により本件処分を行ったことは当事者間に争いがない。
二 原告は本件処分事由の存在を争うので判断する(以下に掲記する乙号各証は成立に争いがない)。
1 本件処分事由1(抗弁1の事実)
(1) 原告は被告に宿日直代行員として採用されて以来、週日は概ね一七時三〇分頃出勤し翌日七時三〇分頃退勤していたことは当事者間に争いがない。
(2) (証拠略)、弁論の全趣旨によると、枚方市における宿日直代行員の週日勤務時間は、同四五年四月から同四七年三月まで一七時始業翌日九時終業と定められていたが、同年四月から一六時三〇分始業翌日八時三〇分終業と変更されたこと、同市における宿日直代行員らは同四五年以来右勤務時間を承認し任用され、これを遵守していること、被告は同五四年八月二三日組合との間で、本件協約を締結し、宿日直代行員の週日勤務時間について、別紙協約三条のとおり、一六時三〇分始業翌日八時三〇分終業と合意したこと(本件協約の存在は争いがない)、被告は同六〇年一月九日守口労働基準監督署長から宿日直代行員の右勤務時間等について労基法四一条第三号所定の適用除外許可を受けたこと、原告は同六一年春学校長から勤務時間を遵守するよう注意されたが、労働慣行に反するとして従わなかったこと、組合は原告の態度を支持していないことが認められる。
(3) 原告は、宿日直代行員の週日勤務時間が一六時三〇分始業翌日八時三〇分終業であるのは労基法三二条に違反すると主張するが、右認定のとおり、被告と組合間に本件協約三条が存在し、被告は同六〇年一月九日労基法四一条第三号所定の適用除外許可を受けているから、右主張は採用できない。
又、原告は右週日勤務時間の定めは一校二人勤務を前提とし、そうでなければ、本件協約二条本文に違反し、且つ、労働慣行にも反すると主張する。しかし、右週日勤務時間の定めが一校二人勤務を前提としていること、労働慣行に反することを認めるに足る証拠はないこと及び本件協約二条但書に照らし、右主張は採用できない。
更に、原告は、宿日直代行員の労働条件は前記適用除外許可に関する労働省労働基準局長通達(昭和四四年四月七日基収三四三号)に反していると主張するが、認めるに足る証拠はなく、且つ、右許可は取消されていないから、右主張も失当である。
(4) 従って、原告の(1)の行為は職務義務に反すると認められる。
2 本件処分事由2、3(抗弁2、3の事実)
本件処分事由2、3は日時を除き当事者間に争いはない。
(証拠略)によると、原告は、右卒業生らは不良グループであり、夜遅く来校したのを追返すのは却って為にならず、教育的配慮から止むなく校内に宿泊させたと言うのであるが、右卒業生らと早朝までマージャンに興じたり、開錠して職員室へ入れ、又、校内をうろつかせたのは論外であり、その結果、盗難事件まで発生したのであるから原告の職務違反による責任は重大である。
3 本件処分事由4(抗弁4の事実)
本件処分事由4は回数、頻度を除き当事者間に争いはない。
(証拠略)によると、原告の右行為は相当回数に及ぶと認められ、職務専念義務に反すると言わざるを得ない。
4 本件処分事由5(抗弁5の事実)
本件処分事由5は当事者間に争いはない。
(証拠略)によると、門扉の閉門は宿日直代行員の職務であり、校舎廊下窓の閉戸は明定されていないが、同様に解せられる。
従って、原告の右行為は職務義務に反する。
5 本件処分事由6(抗弁6の事実)
本件処分事由6は、原告の行為が社会通念を超えているとの点を除き当事者間に争いはない。
(証拠略)によると、宿日直代行員が宿直する際、学校において自炊することは、簡単な夜食を作る以外許されておらず、弁当を持参するのが例であること、原告は同六一年七月頃学校当局らから禁止されたが自炊を止めなかったことが認められる。
従って、原告の右行為は職務遂行に必要な範囲を超えたものと言うべきである。
6 本件処分事由7(抗弁7の事実)
右1ないし5の事実によると、原告が学校長等の指示に従わず反抗的態度を続けたと評されたことは是認できる。
7 本件処分事由8(抗弁8の事実)
(証拠略)によると、原告は、以前から学校校務員の女性に付け回されている感じがするとして、某女性校務員宅に出向きその家族の前で、同女に問い質し、付け回すのを止めるよう申入れたため、身に覚えのない同女の夫から被告に対し激しく抗議がなされたこと、教職員をお前呼ばわりしたり、教職員間にビラを配付させるよう要求したこと、学校の鍵を返還せず自宅に持ち帰り、拾った鍵であるから返す必要はない等と言い、その態度を改めなかったこと等が認められる。
右事実によると、本件処分事由8は肯認される。
以上1ないし7の認定及び説示を総合すると、原告には地公法二八条第一項第一号、第三号に該当する事由があると認めるのが相当である。
三 してみると、本件処分は正当であり、本件処分は、被告が原告の労働条件改善活動を嫌い原告を排除する目的でなされたとの原告の主張は採用するに由ない。
よって、原告の請求を棄却することとし、民訴法八九条(行訴法七条)により主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官 鹿島久義 裁判官北澤章功は転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 蒲原範明)
協約書
第二条 代行員の就業時間は、四週間を平均して一週七二時間以内とする。
但し、この規定によりがたい場合は、当分の間従前の例による。
第三条 始業及び終業の時刻は次のとおりとする。
(1) 宿直は、午後四時三〇分始業、翌日午前八時三〇分終業とする。